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大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)2747号 判決 1969年7月24日

原告 大倉恒雄

右訴訟代理人弁護士 福井由吉

右同 竹内知行

被告 明星興業株式会社

右代表者代表取締役 岩崎太郎

右訴訟代理人弁護士 柴田庄一

右同 大野康平

主文

一、当裁判所が、昭和四〇年(手ワ)第一九三二号約束手形金請求事件につき、同四一年五月一〇日言渡した手形判決を次のとおり変更する。

被告は原告に対し、金二〇〇万円、及びこれに対する昭和四一年一月一四日から完済まで年六分の金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、異議申立の前後を通じ、すべて被告の負担とする。

二、この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し、金二〇〇万円及びこれに対する昭和四〇年一〇月一一日から完済まで年六分の金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決、ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

「一、原告は被告振出にかかる、金額を金二〇〇万円、満期を昭和四〇年一〇月六日、振出地及び支払地を大阪市、支払場所を株式会社関西相互銀行梅田支店、振出日を同年六月三〇日、受取人を白地のままとし、訴外岩崎太郎及び岩崎花子の順次白地裏書記載のある約束手形一通の所持人となったので、これを拒絶証書作成義務免除の白地式裏書をした上訴外吉村定光に譲渡した。訴外吉村は右手形を満期日に支払のため支払場所に呈示したところ、形式不備を理由に支払を拒絶されたので、原告は同訴外人に対し手形金を支払って右手形を受け戻した――右が遡求義務の履行にあたらないとすれば、同訴外人から白地式裏書を受けて右手形を取得した――うえ、満期の翌々日これを支払場所に呈示したところ、前同一の理由でその支払を拒絶された。

よって、ここに被告に対し、右手形金及びこれに対する原告の呈示後である同年一〇月一一日から完済まで、手形法所定年六分の利息金――若しくは商法所定同率の遅延損害金――の支払を求める。

仮に、右各呈示が、いずれも受取人白地のままなされたことによりその効力が生じなかったとしても、原告は、その後原告以外の本件手形上の裏書をすべて抹消したうえ、受取人を原告と、補充し、右補充の事実を記載した準備書面を同四一年一月一三日の本件第二回口頭弁論期日に、被告代理人の面前で陳述したから、これにより被告を遅滞に付する効力が生じたというべく、被告は原告に対し前同一の金員を支払う義務がある。

二、仮に本件手形を振出した者が訴外杉村花子であるとしても、

(一)、訴外花子は、被告代表者に代り、被告名義の手形を振り出す権限を有したものであり、

(二)、仮に、訴外花子に右代理権がなかったとしても、同訴外人は、被告の専務取締役たる地位にあり、かつ、その名称を使用することを許され、過去において再三被告代表者名義の手形を振り出してその割引を受けている事実があり、原告も同訴外人の依頼により全く善意で本件手形を割引いたものであるから、被告は商法二六三条により本件手形振出人としての責任を負うべきであり、

(三)、右法条による責任がないとしても、同訴外人は、被告代表取締役岩崎太郎の妻として同人を補佐し、被告経営にかかるバー、料亭等のマダムとして、店の営業面を担当し、営業に要する酒類等の仕入やその代金の支払をしていたものであり、従って、マダムたる同訴外人が振り出した本件手形を善意で取得した原告に対し、被告は商法四三条により振出人としての責を負うべきであり、

(四)、仮に、訴外花子が本件手形を無権限で振り出したとしても、被告は会社組織となっているもののその実態は、被告代表者岩崎太郎とその妻たる訴外花子の個人経営であるところ、訴外花子は、(三)に述べたとおり営業面における担当者として仕事をし、経理係をしていた訴外堤益太郎においてすら、訴外花子が被告名義の手形を振り出すことについて、なんらの不審をも抱いていなかったのであり、原告も訴外笛田治作から右実情をきいており、被告経営の料亭「木の実」に行ってその営業振りが右のとおりであることを知っていたのみならず、本件手形も訴外英子自身が、被告に必要である旨言明して割引を依頼してきたものであって、右事実関係のもとにおいては訴外花子はその代理権限を超えて本件手形を振り出し、原告が同訴外人に振出権限ありと信じ、かつこのように信ずるについて正当な事由が存したというべきであるから、被告は、民法一一〇条により振出人としての責を負うべきであり、

(五)、以上すべて理由がないとしても、被告の経理部長堤益太郎ほか一名が、昭和四〇年一〇月五日(本件手形満期の前日)、当時の本件手形所持人たる訴外吉村定光に対し、本件手形金を四回に分割して同四二年一月六日までに完済したい旨申し入れ、これにより本件手形振出行為を追認したから、被告は民法一一六条により振出人として責任を負うべきもの

である。

三、被告は、本件手形の第一裏書人(抹消前)が被告代表取締役たる訴外岩崎太郎となっていることから、本件手形の振出が商法二六五条に違反し無効であると主張するけれども、会社がその代表取締役個人に対し手形を振り出すにあたり、会社の取締役会の承認の有無を手形面又は符箋に記載すべきことが要求されていないのであって、かかる場合、手形を譲り受ける第三者において、取締役会の承認を得ているものと思料するのが通常であり、右承認の有無を調査すべき義務を負担するものではないのみならず、原告は、前述のとおり被告の営業責任者たる訴外英子から直接本件手形を取得したのであるから、右のような承認についての調査をしなかったからといって原告には重大な過失がなく、従って、被告の右主張は失当である。)

と述べ(た。)証拠≪省略≫

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「一、原告主張一の事実中、原告がその主張のとおり本件手形受取人として原告の氏名を補充したことは認めるが、被告が本件手形を振り出したことを否認し、その余の事実は知らない。被告は受取人を原告と補充することを承諾したことがなく、従って、右補充は白地補充権の濫用であるから無効である。

二、本件手形は、訴外杉村花子が偽造したものである。即ち、被告代表取締役岩崎太郎は、被告のほか岩崎商事株式会社及び株式会社岩葉等の代表者を兼ね、右各会社等の名義で、料亭「木の実」、サロン「BエンドB」クラブ「ブルー」等合計一一ヵ所の営業を営なみ業界有数の地位を有するのであるが、昭和二六年五月、訴外花子と婚姻して二児をもうけ、当初は円満な家庭生活を送っていたが、数年前から同訴外人に異性関係についてとかくの噂が流れていたところ、同四〇年六月中旬に至り、大阪市内のマンションにおいて訴外山本一二三と同棲同様の不倫関係を続けていることが被告に発覚するや、直ちにその所在をくらませ、爾来同年一一月中頃まで行方不明となっていたのであり、本件手形は、右発覚の約半月後、同訴外人が被告の事務所において被告の印顆を冒用して偽造したものであるから、被告には振出人としての責任がない。

三、原告主張二の事実はすべてこれを争う。右二の(二)及び(四)の主張は、時機に遅れたものとして却下さるべきである。

(一)  訴外花子には、被告代表取締役名義の手形を振り出す代理権がなかった。

(二)  訴外花子は、被告の専務取締役に就任したことがなく、また、被告から右のような代表権限ありと誤信されるような名称を使用することを許されたことがないのみならず同訴外人が、本件手形振出人として右のような名称を付し自らの氏名を記載したものではなく、被告代表取締役の記名をしたのであるから、同訴外人の本件手形振出行為につき商法二六二条の規定を適用する余地がない。

(三)、訴外花子は、被告経営にかかるクラブのホステスとして勤務していたに過ぎず、経理面等については全く関与していなかったのである。サロン・クラブ等においては、いわゆるマダムなる者が一面華やかに立ち働いているが、自分で店舗をもっている場合は格別、一般にはその経営についてなんらの権限をも有しないから訴外花子の本件手形振出行為につき商法四三条を適用さるべきでない。

(四)、訴外花子が、右(三)に述べたとおり被告代表取締役を代理するなんらの権限を有しないのであるから、同訴外人の本件手形振出行為については基本代理権が存しないのみならず、原告が同訴外人に本件手形振出権限があると信じたとしても、これについては原告に重大な過失があるから、被告には、民法一一〇条による表見代理の責任を負ういわれがない。

(五)、被告が、本件手形振出行為を追認したことがない。原告主張の分割弁済申入は、本件手形と別個の手形(岩崎商事株式会社振出名義のもの)についてなされたものである。

四、本件手形の振出が仮に真正になされたとしても、その相手方は第一裏書人たる被告の代表取締役岩崎太郎個人であるところ、右振出については、被告取締役会の承認決議がなされていないから、商法二六五条により振出は無効である。」

と述べ(た。)証拠≪省略≫

理由

一、原告の主張一の事実中、原告がその主張のとおり本件手形の受取人を原告と補充し、裏書全部を抹消したことは当事者間に争いがなく、右補充、抹消後の手形を昭和四一年一月一三日の本件第二回口頭弁論期日に被告訴訟代理人に呈示したことは当裁判所に顕著であり、その余の事実(但し、被告振出の点を除く。)は、甲第一号証を原告が所持している事実と、≪証拠省略≫によって認められ、右認定を覆えすに足る証拠がない。

被告は、本件手形受取人の補充が補充権の濫用であると主張するけれども、手形がその受取人を白地としたまま順次裏書された場合に、最終所持人が受取人として第一裏書人の氏名を補充するのが通例であるけれども、これをせずに、すべての裏書を抹消して最終所持人の氏名を受取人として補充したときも、これをもって少なくとも振出人との関係において白地補充権の濫用というべきではないと解すべきである。けだし、かかる補充を許しても、手形振出人に対しなんらの不利益を課することにならないからである。従って、被告の右主張は採用することができない。

二、原告は、被告代表取締役が本件手形を振り出したと主張するところ、振出人たる被告(会社)及びその代表取締役岩崎太郎の記名印、ならびに名下の代表取締役の印影がいずれも被告のものであることにつき争いのない甲第一号証は、前掲証人杉村花子の証言、ならびに被告代表者本人尋問の結果(一、二回)に照らして真正に成立したものと推定することができないから、同号証を被告振出事実認定の資料とすることができず、他に右原告主張事実を認むべき証拠がない。却って、右証拠によると、本件手形は訴外杉村花子(当時岩崎花子。以下訴外花子という。)によって振り出されたことが認められるから、右主張は採用できない。

三、よって、本件手形を訴外花子が振り出したことを前提とする原告の主張二、について順次判断する(被告は、右主張のうち、(二)及び四の主張は時機に遅れたものとして却下さるべきであるというけれども、当裁判所に顕著な本件訴訟の経過からみて、右原告の主張をもって時機に遅れたものであり訴訟を著しく遅延させるものとは認められないから、被告の抗弁は理由がない。)。

(一)、原告は、訴外花子には被告代表取締役名義の本件手形を振り出す代理権があったと主張するけれども、これに副う供述記載がある、≪証拠省略≫は、被告の手形等振出権限と、後記認定の訴外岩崎商事株式会社の手形振出権限とを混同している箇所が多分にあるのみならず、これを≪証拠省略≫と対比するときは、たやすく信を措くことができないところであり、他にこれを認めるに足る的確な証拠がない。

(二)、原告は、訴外花子が被告の専務取締役たる地位にあり、かつ、右名称を使用することを被告から許されていたから、被告は商法二六二条により本件手形振出人としての責任を負うべきであると主張するけれども、原告の全立証によっても、同訴外人が右地位にあり、若しくは、右名称の使用を被告から許されていた事実を肯認するに足りない。却って、≪証拠省略≫によると、右事実が存しなかったことが認められるから、右主張はその前提を欠き採用し得ない。

(三)、原告は、訴外花子は被告代表取締役岩崎太郎の妻として、同人を補佐し、被告経営にかかるバー、料亭等のマダムとしてその営業面を担当し、営業に要する酒類等の仕入やその代金の支払をしていたものであり、従って、マダムたる同訴外人が振り出した本件手形を、善意で取得した原告に対し、被告は、商法第四三条により振出人としての責任を負うべきであると主張するので判断を加える。

商法四三条は、番頭、手代その他営業に関する或種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、その事項に関し一切の裁判外の行為をする権限を有し、右権限に加えた制限は、これをもって善意の第三者に対抗し得ない旨規定しているところ、右にいう「番頭、手代その他の使用人」にあたるかどうかは、経済機構の発展と、その企業主体の規模の大小によって決すべきものであり、その使用人に付せられた呼称(名称)の如何によって決せられるべきものではなく、また、「営業に関する事項」も流通機構の発達とともに拡大されるべきものであり、現在のように手形も小切手同様夥しく利用され流通している状況の下においては手形の振出又は裏書等の行為も、その原因関係の如何にかかわらず「営業に関する事項」に包含されると解すべきである。

これを本件について考えてみるに≪証拠省略≫を総合すると、次の事実が認められる(右各証拠のうち、次の認定に反する部分は措信しない。)

(イ)  被告の代表取締役たる訴外岩崎太郎と訴外杉村花子(以下両名共単に名を記載する。)は、昭和二五年頃から事実上の夫婦となり、花子は太郎の妻として飲食業の経営に協力し、一男一女をもうけ、同二八年五月に婚姻の届出をし円満な家庭生活を送り、同四〇年六月当時においては、夫婦で被告のほか訴外岩崎商事株式会社(以下訴外岩崎商事という。)及び訴外株式会社岩葉(以下訴外岩葉という。)を経営し、太郎が右三会社の代表取締役、花子が訴外岩崎商事の代表取締役と、被告及び訴外岩葉の取締役を兼任し、右三会社によって、バー、サロン、料亭、飲食店等計七営業所を経営していたが、被告は、そのうちサロン「BアンドB」、クラブ「ブルー」、及び、カレーショップ「ニューデリー」の三つを経営し、太郎及び花子夫婦は、訴外岩崎商事経営にかかる料亭「木の実」において起居しており、各会社代表者の印顆も右「木の実」の金庫に保管し、太郎不在のときは花子が金庫の鍵を保管していた。

(ロ)  右三会社の資本金は被告約五〇〇万円、訴外岩崎商事約四〇〇万円、訴外岩葉約三〇〇万円で小規模であり、しかも株式払込金はすべて太郎及び花子夫婦が出資し、他の株主は単に名義上名を連ねているに過ぎず、実質的にみれば右夫婦の個人企業とかわりがなかった。そして、花子は被告経営にかかる前示クラブ「ブルー」において、いわゆるマダムとして、右クラブの洋酒仕入、従業員の監督、仕入代金の支払等一切の営業に関する義務を統轄していたのみならず太郎が外出勝ちであったため、その他の営業所の経理等に関してもこれを指揮監督しており、各仕入先においても、被告等からの支払を受けるためには、マダム花子を掴まえなければどうにもならないことを十分知っていた。

(ハ)  同二八年頃、英子と太郎が共謀して和酒を洋酒壜に入れ替えたりした事実が発覚したが、花子がマダムとして単独で犯したと自供し、花子のみが商標法違反罪で起訴され、最高裁に上告したが、結局罰金三〇〇万円の刑が確定した。

(ニ)  右確定前、太郎は花子に対し、前示違反は被告の利益を挙げるためにしたことで、かつ、自己もこれに共謀したことでもあるところから、会社資金をもって罰金に充てると約していたのにかかわらず、同三九年中頃から、太郎の女性関係の出入りがはげしいことや、花子についても異性関係があるとの噂が流れたことなどが原因となって、夫婦の間がとかく円満を欠くようになった結果、離婚話が出るに及び、太郎に前示約束の履行を期待し得なくなることをおそれた花子において、右罰金支払資金に充てるため、同四〇年六月下旬、太郎に無断で、訴外岩崎商事振出名義の二〇〇万円の約束手形、及び、被告振出名義の本件手形各一通を振り出し、いずれもその頃原告からこれが割引を受けた。

(ホ)  花子は、本件手形の割引を受けるにあたり、被告の資金として入用である旨を、原告及び原告に割引資金を提供した訴外吉村定光に告げたのみであるが、原告及び右訴外人が、かねてから花子が被告経営のクラブ「ブルー」のマダムとしてその営業に関する一切を取り仕切っていることを知っていたため、当然花子が本件手形振出の権限を有するものと信じてこれが割引をした。

以上に認定した事実を要約すると、小規模で、しかも実質的には太郎、花子夫婦の個人経営ともみられる被告が経営するクラブのマダムたる花子が、クラブの営業利益を挙げるために犯した商標法違反罪による罰金納付資金に充てるため、被告名義の本件手形を振り出し、善意の原告からその割引を受けたのであって、右花子の行為は、商法四三条にいわゆる「番頭、手代」がその「営業に関する事項」についてしたものというべきであるから、被告は、右振出権限がないことにつき善意であった原告に対し、本件手形振出人としての責任を負うべきであるといわねばならない。

四、被告は、本件手形の振出は、商法二六五条に違反し無効であると主張し、本件手形が受取人白地のまま振り出され、振出人たる被告の代表取締役岩崎太郎が個人として第一裏書を、被告の取締役岩崎(杉村)花子が第二裏書をしていたことは前示認定のとおりであり、本件振出について被告の取締役会の承認を得ていないことは弁論の全趣旨により認められるけれども、およそ手形の振出は、単に取引の手段として用いられるに過ぎず、それ自体右法条にいわゆる「取引」にあたるものではないと解すべきである(右見解と異なる、最高昭和三八年三月一四日判決、民集一七巻二号三三五頁の見解は、当裁判所の採らないところである。)から、被告の本件手形振出が、これにあたることを前提とする被告の主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

もっとも、手形振出の原因関係となった会社と取締役個人との間の契約その他の行為が、右法条所定の取引に該当し、これについて取締役会の承認を得ていないときは、原因関係たる行為が無効であることはいうまでもなく、これについて取締役から裏書を受けた手形権利者が悪意であるときにおいては、会社は右手形権利者に対し、手形法一七条但書により、原因関係の無効―不存在―を理由として手形金の支払を拒み得ると解すべきであるけれども、本件において、被告は、右のような主張立証をしていない。

(なお、仮に、手形の振出が、同条にいわゆる取引にあたるとしても、前項において認定した事情の下に振り出された本件においては、右振出をもって被告に不利益を蒙らせたということができず、かかる場合同条を適用すべきものではないから、いずれにしても、被告の右主張は理由がない。)

五、ところで、原告は、本件手形裏書人(償還義務者)として、訴外吉村定光に対し手形金を支払って本件手形を受け戻したというけれども、本件手形が同訴外人によって支払場所に呈示された当時、受取人が白地のままであったことは原告の主張自体からみて明らかであって、かかる場合、裏書人たる原告に償還義務が発生していないわけであるから、右義務を履行したことを原因とする原告の本訴請求は失当である。

しかし、原告は、右訴外人に対し対価を支払って本件手形の白地裏書を受けた上、裏書全部を抹消し、受取人として原告の氏名を補充し、これを同四一年一月一三日の本件口頭弁論期日に呈示したことは前示認定のとおりであるから、これにより被告を付遅滞においたというべく、従って、その余の点について判断するまでもなく、被告は原告に対し、本件手形金、及びこれに対する右呈示日の翌日から完済まで、商法所定年六分の遅延損害金を支払う義務があるといわねばならないから、原告の本訴請求は、右限度において正当として認容すべく、その余の部分を失当として棄却すべきである。

よって、右判断と牴触する手形判決を変更し、訴訟費用の負担について、民訴法九二条但書を、仮執行の宣言について同法一九六条二項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下出義明 裁判官 内園盛久 裁判官工藤雅史は転任のため署名押印することができない。裁判長裁判官 下出義明)

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